日本酒も泡盛も、米から造られます。

普段からお酒を嗜む人からすればその違いは当たり前かもしれませんが、なじみがなければ、違いは産地やアルコール度数くらいにしか見えないのではないでしょうか。

けれど、瓶の中に入っているものは大きく違います。

日本酒は、米を発酵させた液体に含まれる糖や酸、アミノ酸まで残した酒です。
泡盛は、その発酵液を蒸留し、アルコールと揮発する香りを中心に取り出した酒です。

違いを決めるのは、どちらも米から造られるという共通点ではなく、発酵を終えたあとに何をするか。

すなわち、もろみ(発酵を終えた米)を搾るのが日本酒、蒸留するのが泡盛です。

この違いが、味の残り方、香りの立ち方、熟成の考え方、料理での働きまで変えていきます。

この記事では、日本酒と泡盛の違いを、教科書的な定義からではなく、「瓶の中に何が残っているか」という視点から見ていきます。

搾るか蒸留するか

日本酒は、蒸した米に麹と水と酵母を加え、ひとつのタンクの中で発酵させます。
麹の酵素が米のデンプンを糖に変え、その糖を酵母がアルコールに変える。この二つが同じ場所で同時に進む造り方を「並行複発酵」と呼びます。
発酵を終えたもろみを搾り、液体の部分を取り出したものが日本酒です。

泡盛も、出発点は米です。
ただし、日本酒とは麹の使い方が異なります。泡盛では黒麹菌を使い、原料米をすべて麹にしてから、水と酵母を加えて発酵させます。
そして、発酵を終えたもろみを単式蒸留機にかけます。

酒税法上の分類でも、日本酒は「清酒」、泡盛は「単式蒸留焼酎」です。

つまり、
日本酒は、発酵液を搾った酒。
泡盛は、発酵液から揮発する成分を取り出した酒です。

蒸留すると何が変わるのか

蒸留では、もろみを加熱し、蒸発した成分を冷やして液体に戻します。
このとき、アルコールや香りの成分など、揮発しやすいものは蒸気側へ移ります。
一方、糖やアミノ酸、ペプチドなど、揮発しにくい成分の大部分は蒸留釜に残ります。

日本酒には、これらの成分が搾った液体の中に残っています。

数字で見ると、違いが分かりやすくなります。

文部科学省の日本食品標準成分表では、100gあたりの成分は次のようになっています。

100gあたり 純米酒 単式蒸留しょうちゅう
炭水化物 3.6g 0g
たんぱく質 0.4g 0g
アルコール 12.3g 20.5g

ここでいう「0g」は、完全なゼロという意味ではなく、成分表の記載限度を下回るか、検出されなかった水準を示します。

それでも、日本酒と蒸留酒では、糖質やたんぱく質の量に明確な差がありますね。

ある報告では、純米酒のエキス分は平均約4.8%、還元糖は約2.0%でした。
密度をおおむね1として換算すると、純米酒1リットルには、アルコールと水以外の溶解成分が約48グラムあり、そのうち約20グラムが糖というイメージです。
もちろん、銘柄によって数値は変わりますが、日本酒にはグラム単位で味に関わる成分が含まれていることが分かります。

一方泡盛では、こうした糖やアミノ酸などの大部分が蒸留釜に残ります。

この違いは、実際に飲んだときにも表れます。
日本酒は、飲み込んだあとにも甘味、酸味、旨味、苦味などが口の中に残りやすい。
泡盛は、香りとアルコールの感覚が前に出たあと、味そのものは比較的速く引いていきます。

軽い、重いという違いではありません。

日本酒は、発酵液に溶けた味の成分を抱えたままの酒。
泡盛は、その多くを蒸留釜に残し、アルコールと揮発性の香りを中心に取り出した酒です。

蒸留という一工程が、味をつくる成分の量を大きく変えています。

泡盛は香りが味わいの主役になる

日本酒は、発酵したもろみに含まれる糖やアミノ酸、有機酸などを、そのまま酒の中に残します。だから、甘味、酸味、旨味といった「舌で感じる味」が酒の骨格になります。

泡盛は逆です。蒸留すると、糖やアミノ酸などの多くは蒸留釜に残り、アルコールと一緒に揮発した香りの成分が取り出されます。そのため泡盛では、日本酒以上に香りそのものが味わいの中心になります。

口に含む前に鼻に立つ香り。含んだ瞬間にアルコールと一緒に広がる香り。そして飲み込んだあと、鼻へ抜けていく香り。泡盛のおいしさを形づくっているのは、舌の上に残る糖や旨味だけではなく、こうした香りの動きです。

これは「泡盛は味がない」という意味ではありません。むしろ、舌に残る成分が少ないぶん、香りの違いが酒の個性として前に出やすい、と考えたほうが分かりやすいと思います。

では、どんな香りなのでしょうか。

泡盛古酒を分析した沖縄県工業技術センターの報告を見ると、イソアミルアルコールやイソブチルアルコールなどの高級アルコールが多く含まれています。一方、日本酒の吟醸香として知られる酢酸イソアミルやカプロン酸エチルは、泡盛にもありますが、量はそれほど多くありません。

参考値を三つだけ並べると、次のようになります。

1リットルあたり 清酒 泡盛
イソアミルアルコール 70〜270mg 517mg
酢酸イソアミル 最大約15mg 2.3mg
カプロン酸エチル 最大約11mg 0.76mg

この数字から分かるのは、泡盛が「日本酒の香りを濃くした酒」ではないということです。

吟醸酒のようなリンゴやバナナの香りを強くしたものではなく、発酵で生まれたさまざまな揮発成分を蒸留によって取り出し、それらが組み合わさって泡盛独特の香りをつくっています。さらに熟成すると、その香りの組み合わせ自体が変化していきます。

もちろん、香りは成分の量だけでは決まりません。人が感じ取れる濃度は成分ごとに違うため、ごく少量でも強く存在を感じるものがあります。上の表も、清酒と泡盛ではアルコール度数や分析条件が異なるため、単純な優劣を示すものではありません。

それでも、日本酒との違いをつかむには十分です。

日本酒は、もろみから受け継いだ「味」を抱えた酒。泡盛は、蒸留によって取り出した「香り」を前面に出す酒。

同じ米を発酵させても、最後に搾るか蒸留するかで、酒の重心そのものが変わります。

同じ香り成分が、片方では欠点になり、片方では宝になる

米の細胞壁には、フェルラ酸という成分があります。
これが微生物の働きで変化すると、4-VG(4-ビニルグアイアコール)という香りの成分になります。

低い濃度では香辛料や穀物のように感じられ、高い濃度では燻製や薬品のように感じられることがあります。

清酒の世界では、4-VGは欠点につながる香りとして扱われています。広島県の資料では、「生成を防止すべき物質として認識され、清酒の製造現場では様々な対策が実施されている」と説明されています。

清酒酵母そのものは、フェルラ酸を4-VGへ変換しません。麹などに付着した雑菌や、清酒酵母以外の酵母が関わるとされています。
つまり、清酒では意図せず発生させないよう管理される香りです。

ところが泡盛では、同じ4-VGが別の意味を持ちます。
泡盛のもろみでは、一部の生酸菌がフェルラ酸を4-VGへ変えることが分かっています。
そして、貯蔵中に4-VGの一部がバニリンへ変化します。

バニリンは、バニラを思わせる甘い香りの代表的な成分。古酒を口元に近づけたときに感じる、丸く甘い香りの一部に関わっています。最近の研究では、もろみに存在する菌を選ぶことで、4-VGの生成量を調整できる可能性も示されています。

同じ米の、同じ成分から生まれる同じ分子が、片方では発生を避けられ、片方では熟成香の出発点として研究されている。

どちらも「米の酒」とだけ括ってしまうと、この面白さは見えません。

料理に使うと、違いが見えやすい

ここからは、両者の成分構成から考えられる、料理上の大まかな傾向です。

日本酒を煮物に加えると、アルコールが飛んだあとにも、糖やアミノ酸、有機酸などが残ります。
そのため、煮汁に甘味や旨味、厚みを加えたり、塩味や酸味の角をやわらげたりする働きが期待できます。

一方、泡盛には、アルコールが飛んだあとに味として残る成分が多くありません。
度数が高いため香りは強く立ちますが、日本酒のように煮汁へ甘味や旨味を加える働きは弱くなります。

泡盛がラフテーや山羊料理、内臓料理などに使われるのは、この性質と相性がよいからだと考えられます。
香りの強い食材に使うと、加熱によって泡盛のアルコールと香りが大きく立ち上がります。
一方で、料理の味そのものを甘くしたり、重くしたりしにくい。

反対に、煮汁そのものを味わう煮物では、日本酒の糖やアミノ酸などが仕事をします。

レシピに書かれた「酒」を泡盛へ置き換えると、香りは立つのに、煮汁が薄く感じられることがあるのはこのためです。

大まかな使い分けとして表現するなら、
泡盛は飛ばして整理し、日本酒は加えて整える。

同じ「臭みを抑える」という目的で使われても、料理の中で果たす役割は同じではありません。

ナガハマ88の棚では

ナガハマ88の棚はワインを除けば純米酒が中心です。

泡盛は現在、沖縄県名護市の合資会社 津嘉山酒造所が造る「國華」だけを扱っています。
沖縄の酒屋としては、泡盛の数は少ないほうだと思います。

数を絞っているのは、泡盛を軽く見ているからではありません。
棚に置くなら、その一本を説明できる状態にしておきたいからです。

津嘉山酒造所は大正13年創業。昭和3年頃に建てられた赤瓦の酒造所は、2009年に国の重要文化財へ指定されました。

現在も、その建物の中で泡盛を造っています。

國華の3年古酒は43度です。
数字だけを見ると身構えますが、この度数で飲むのが一番國華の味わいを楽しむことができると考えています。
もちろん水を加えても香りの輪郭が崩れにくく、度数を下げても味わいが痩せにくいですが、それは蒸留酒としての骨格がしっかりしているから。

日本酒と泡盛を比べてみるなら、アルコール度数をある程度そろえると違いが分かりやすくなります。例えば、國華43度に2倍ほどの水を加えると、15度前後になります。
同じ料理を用意し、日本酒と泡盛を交互に飲んでみてください。

飲み込んだあと、口の中に何が残っているか。
日本酒は味が残り、泡盛は香りを残しながら味が引いていく。

その差を一度体感すると、「どちらも米の酒」という言葉の意味が変わってくると思います。

まとめ

日本酒と泡盛の違いは、原料だけを見ても分かりません。
決定的な違いは、発酵を終えたもろみを搾るか、蒸留するかです。

日本酒は、発酵液に溶けた糖やアミノ酸、有機酸などを残したまま瓶に入ります。
泡盛は、その多くを蒸留釜に残し、アルコールと揮発性の香りを中心に取り出します。

その違いから、味の残り方、香りの種類、熟成の位置づけ、料理での役割までが変わります。
同じ米から始まりながら、搾るか蒸留するかで、これほど別の酒になる。
そこが、日本酒と泡盛を比べる面白さだと思います。

よくある質問

日本酒と泡盛は、飲むとどう違いますか?

日本酒は、甘味、酸味、旨味、苦味などが重なり、飲み込んだあとにも味が残りやすい酒です。
泡盛は、アルコールと香りが立ち、味そのものは比較的速く引いていきます。
大まかに表現すると、日本酒は味を残す酒、泡盛は香りを残す酒です。
ただし、日本酒にも軽く切れるものがあり、泡盛にも熟成によって厚みや丸みを感じるものがあります。

日本酒と泡盛は、どちらが甘いのですか?

日本酒には糖が含まれるため、実際の甘味があります。ただし、酸が強ければ、糖が多くても甘く感じにくいことがあります。泡盛には糖がほとんど含まれません。それでも甘く感じることがあるのは、バニラや果実を思わせる香り、アルコールの質感、熟成による丸みなどが関係しています。
つまり、日本酒の甘さは主に味としての甘さ、泡盛の甘さは主に香りや口当たりから感じる甘さです。

日本酒と泡盛は、どちらが香りの強い酒ですか?

単純には決められません。
泡盛はアルコール度数が高く、香りが強く立ち上がりやすい酒です。一方、日本酒にも、吟醸香のようにはっきりした果実香を持つものがあります。
また、香りは成分の量だけでは決まりません。少量でも人が感じ取りやすい成分があります。
泡盛は日本酒の香りを濃くした酒ではなく、香りの種類と組み合わせが違う酒です。

日本酒と泡盛は、料理で同じように使えますか?

どちらも使えますが、同じ仕上がりにはなりません。
日本酒は、アルコールが飛んだあとにも糖やアミノ酸、有機酸などが残ります。そのため、煮汁に甘味や旨味、厚みを加える働きがあります。泡盛は、アルコールが飛んだあとに残る味の成分が少なく、食材や料理の香りを大きく動かします。
大まかに分けるなら、日本酒は味を加えて整え、泡盛は香りを立てて整理します。
レシピの日本酒を泡盛に置き換える場合は、量だけでなくアルコール度数も調整する必要があります。

日本酒と泡盛は、どちらも熟成しますか?

どちらも熟成しますが、変化の仕方と表示のルールが異なります。
日本酒は、糖、アミノ酸、有機酸などが反応し、色や香り、味が変化します。若い酒にはない熟成香や旨味が生まれる一方、保存状態によっては劣化にもつながります。
泡盛は、貯蔵によって刺激がやわらぎ、香りが丸く変化します。全量を3年以上貯蔵した泡盛だけが「古酒」と表示できます。

日本酒と泡盛は、なぜアルコール度数が違うのですか?

日本酒は、発酵によってできた酒を搾ったものです。市販品は15度前後が中心です。
泡盛は、発酵したもろみを蒸留し、アルコールを集め直した酒です。そのため、日本酒より高い度数にできます。
市販の泡盛には25度や30度のものが多く、古酒や原酒には40度を超えるものもあります。
この度数差も、泡盛の香りが強く立ちやすく、日本酒の味が口に残りやすい理由の一つです。

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記事に登場した商品

國華 3年古酒 43度

合資会社 津嘉山酒造所/沖縄県名護市
単式蒸留焼酎(泡盛)。全量を3年以上貯蔵した古酒です。
43度と高めですが、この度数でチビチビと楽しむのが、泡盛の香りと熟成を体感しやすい度数です。

店頭・オンライン取扱

参考文献・出典

本文で触れた製法、成分値、表示ルール、研究報告の出典は次のとおりです。

お酒は20歳になってから。適量を、おいしく楽しみましょう。