関東も梅雨が明け、いよいよ夏が始まりましたね。
よく冷えた一杯がうれしい日もあれば、夕食の湯気に合わせて、ぬる燗をゆっくり飲みたい夜もあります。
冷房の効いた部屋で、焼き魚や島豆腐、味噌を使った料理に、温かい酒を少し。口の中で酒の旨味がほどけ、料理の余韻に重なっていく。その心地よさは、冬だけのものではありません。
ラーメンや味噌汁を一年中楽しむように、日本酒も冷たいものだけでなくていい。
冷酒では見えにくかった香りや旨味が、少し温めることでひらく酒があります。
同じ一本を、冷酒、常温、燗で飲んでみる。正しい温度を決めるというより、その酒と自分にとって心地よいところを探していく。
それが、お燗の面白さです。
なぜ、温度で味わいが変わるの?
私たちが感じる「味わい」は、舌で感じる甘味、酸味、苦味、旨味だけでできているわけではありません。鼻に届く香りや、口当たり、温度の感覚が重なって、一杯の印象をつくっています。
日本酒を温めると、香りの成分が液体から空気中へ移りやすくなり、冷たいときには見えにくかった香りを感じやすくなります。
また、人の味覚そのものも温度の影響を受けます。同じ成分を含む酒でも、温度が変われば、甘味や旨味、苦味、酸味の強さやまとまりが違って感じられることがあります。
温めることで酒の成分が急に増えるのではなく、もともと含まれている香りや味の受け取り方が変わる。そう考えると、分かりやすいかもしれません。
そして、温度によって印象が変わるのは、酒だけではありません。
温かい酒を口に含むことで、焼き魚の脂や、煮物、味噌、出汁を使った料理の香りがやわらかくほどけ、つまみの旨味までふくらんで感じられることがあります。
酒と料理の温度が近いと、どちらかが浮くのではなく、口の中で味わいが自然につながりやすくなります。冷たい酒が料理をさっぱりと切る組み合わせだとすれば、燗酒は料理の温度や旨味に寄り添い、一緒に味わいを広げていくような合わせ方です。
ただし、温めれば必ず酒がやわらかくなるわけではありません。酸がはっきり見える酒もあれば、キレやアルコールの力強さが前に出る酒もあります。
酒だけでなく、合わせる料理の感じ方まで変わっていく。その変化も含めて楽しめるのが、お燗の面白いところです。
燗の温度には、呼び名がある
燗には、およそ5℃ごとに呼び名があります。
すべて覚える必要はありませんが、温度の目安として知っておくと、好みを探すときの手がかりになります。
日向燗(ひなたかん)約30℃
ほんのり温かく、香りが穏やかに立ちはじめる。
人肌燗(ひとはだかん)約35℃
米や麹の香り、やわらかな甘味を感じやすくなる。
ぬる燗(ぬるかん)約40℃
甘味や旨味がふくらみ、丸みを感じる。
上燗(じょうかん)約45℃
香りと味わいが引き締まり、酒の輪郭が見えやすくなる。
熱燗(あつかん)約50℃
キレが際立つ酒もあれば、旨味がさらに広がる酒もある。
飛び切り燗(とびきりかん)約55℃以上
力強さや、すっきりとした後口を楽しめる。
これはあくまで目安です。
酒によっては、温度を上げすぎると味わいのバランスを崩すこともあれば、低い温度ではまだ十分にひらかないこともあります。
呼び名や数字にこだわりすぎず、少しずつ温度を動かしながら、自分の好きな酒で心地よいところを探してみてください。
夏に、燗酒を飲んでもいい?
燗酒は、一年を通して楽しめます。
夏に飲むなら、一度にたくさん温めず、少量ずつ試すのがおすすめです。
まずは40℃前後のぬる燗から。
焼き魚、島豆腐、煮物、味噌を使った料理など、温かい料理と合わせてみてください。
口当たりがやわらかく感じられたり、冷酒では目立たなかった旨味や酸が、料理と一緒にゆっくり広がったりすることがあります。
燗酒は、温めた瞬間だけのものでもありません。
少量を温め、少しずつ冷めていく変化を味わう。その時間まで含めて楽しめるのも、お燗のよさです。
夏の夜に、冷房の効いた部屋で、ぬる燗をゆっくり。
冷たい酒とはまた違った心地よさがあります。
家で燗をつけるには?
特別な道具がなくても、家庭で燗はつけられます。
基本は湯煎です。
酒タンポやちろり、徳利がなければ、耐熱性のグラスでもかまいません。
鍋や深めの器に熱湯を張り、日本酒を注いだグラスを浸けて、ゆっくり温めます。
沸騰したままのお湯で長く加熱するのではなく、火を止めてから温めると、温度を調整しやすくなります。
温度計がなくても大丈夫です。
少し飲んでみて、もう少し温める。その繰り返しでも、自分の好きな温度を探せます。
電子レンジでも燗はつけられます。ただし、容器の中で温度差ができやすいため、少量ずつ短時間で温め、途中や最後に一度混ぜると、温度が均一になりやすくなります。
ゆっくり変化を確かめたい場合は、湯煎がおすすめです。
ナガハマ88でも、ご自宅でのお燗に使いやすい酒タンポや、燗付け器「かんまかせ」をご用意しています。
燗酒に向いているのは、どんな酒?
一般的には、旨味や酸に厚みのある純米酒、生酛や山廃造りの酒、熟成した酒などは、温度を変えながら楽しみやすい傾向があります。
生酛や山廃は、乳酸菌の働きを生かしながら、酒のもととなる酒母を育てる伝統的な造りです。
ただし、「純米酒だから燗向き」「生酛だから必ず温めた方がよい」と、分類だけで決まるものではありません。
華やかで繊細な香りを中心に楽しむ吟醸酒や、生酒などは、冷やした方が持ち味を感じやすいものもあります。
大切なのは、酒の名前や分類だけで判断せず、実際に少し温度を動かしてみることです。
初めて燗酒を試すなら
最初から、その酒の「正解の温度」を当てる必要はありません。
次の順番で、少しずつ試してみてください。
- まずは40℃前後まで温める
- 香りを確かめ、少量を飲んでみる
- もう少し力強さが欲しければ、温度を少し上げる
- 料理と一緒に味わってみる
- 温めた酒が冷めていく変化も楽しむ
- 心地よく感じた温度を覚えておく
「正しい温度を当てる」のではなく、「自分の好きな温度を探す」。
そう考えると、お燗はぐっと気軽になります。
ナガハマ88で扱っている、燗向きの酒
ナガハマ88では、温度を変えながら楽しみたい純米酒を多く揃えています。オンラインストアでは、主に「Trad Sake」のカテゴリーでご紹介しています。
梅津酒造のように、燗を基本の飲み方として勧める蔵もあれば、神亀酒造や鯉川酒造のように、冷酒、常温、燗と温度を動かすことで、味わいの変化を楽しみたい酒を醸している蔵もあります。
こうした酒の中には、開栓直後にすべてを飲み切らず、数日かけてゆっくり飲むことで、味わいが馴染んでいくものも多くあります。
どの酒を、どの温度で楽しむか。迷ったときは、店頭で気軽にお尋ねください。
まとめ
燗酒は、寒い日のためだけのものではありません。
温度を変えることで、冷酒では見えにくかった香りや旨味がひらき、同じ一本の中にある別の表情に出会えることがあります。
まずは少し温めて、ひと口。
そこから、自分とその酒にとって心地よい温度を探してみてください。
記事に登場した商品・道具
0.8合 熱燗チロリ
少量のお燗を手軽につけやすいチロリ(京都・大阪では酒タンポというらしい)です。深めの器や鍋にお湯を張り、湯煎して使います。
- 容量:0.8合
- 用途:日本酒の湯煎
- 取扱い:店頭・オンラインストア
酒燗器「かんまかせ」
二つの容器を温められる燗付け器です。詳しい用途や使い方は、メーカーの案内を確認のうえご紹介します。
- 取扱い:店頭・オンラインストア
詳しい使い方は、店頭でもお気軽にお尋ねください。
ナガハマ88の純米酒
温度を変えながら、旨味の広がりをゆっくり楽しみたい純米酒を中心にそろえています。
- 取扱い:店頭・オンラインストア
お酒は20歳になってから。適量を、おいしく楽しみましょう。