ナガハマ88は酒屋ですが、店には昆布もあります。「なぜ酒屋に昆布?」と思う方もいるかもしれません。

理由は単純で、私たちは酒も食品も、おいしいこと、そのうえでつくり方や背景まで納得できることを基準に選んでいるからです。昆布もその一つです。

店で扱っているのは、大阪の昆布屋「こんぶ土居」の商品です。1903年創業で、現在は四代目の土居純一さんが、昆布やだし、食文化について発信を続けています。

ただ、老舗だから扱っているわけではありません。実際に食べておいしく、商品を見ていくと、なぜこの形なのかにきちんと理由がある。そこに惹かれています。例として「日本の出し」を見てみましょう。

「便利な本物」——「日本の出し」が二つに分かれている理由

こんぶ土居の「日本の出し」は、真昆布と鰹枯節を使っただしパックです。少し変わっているのは、昆布と鰹節が別々の袋に入っていること。まず昆布を、そのあとに鰹節を使います。

一般的なだしパックのように一袋にまとめれば、手順は一つで済みます。ただ、昆布と鰹節では適した抽出のしかたが違うので、同じ湯に同じ時間入れると、どちらかに合わせることになります。こんぶ土居でも混合型を試したものの、鰹節の味が強くなり、昆布が十分に生きなかったそう。

分けてあるこの形は、結果として、昆布を先に、鰹節をあとから使う昔ながらのだしの取り方をそのままなぞっています。便利にはする。でも、便利にするために味の大事なところまでは削らない。

この商品は、土居さんが「便利な本物」と呼ぶ考え方が、とてもよく表れた商品だと思います。

昆布屋なのに、「うま味」と言いたがらない

もう一つ面白いのが、こんぶ土居が「うま味」という言葉をあまり使わないことです。

昆布といえばグルタミン酸。鰹節のイノシン酸と合わせれば、うま味の相乗効果が起きる。これは科学的に分かっていることで、受容体のレベルまで仕組みが示されています。系統の違ううま味成分が同時にあると、それぞれ単独で感じる強さの合計よりも強く感じられる。昆布と鰹節を合わせるという台所の習慣に、理屈が後からついてきた例です。

ただ、この相乗はどんな組み合わせでも起きるわけではありません。うま味の成分は、昆布や熟成チーズのようなアミノ酸の側と、鰹節や干し椎茸のような核酸の側に大きく分かれます。相乗は、この違う系統が二つ揃ってはじめて起きる現象です。そうなると、両方がアミノ酸の側に寄っている組み合わせでは起きにくいことになります。たとえば熟成チーズと日本酒がそうです。

つまり「発酵食品同士だから合う」という説明は、少なくともうま味の相乗という意味では成り立ちません。チーズと日本酒が合うときには、別の理由が働いています。この話はチーズに日本酒|合う理由と、外れるときに書きました。

そしてもう一つ。相乗が起きること自体は確かでも、相乗が起きれば必ずおいしくなるわけでもありません。うま味が強く出すぎて重くなる組み合わせもあります。

ここまで来ると、「昆布がおいしい=グルタミン酸が多い」という説明の危うさが見えてきます。そう言い切ってしまうと、「ならグルタミン酸だけ加えれば、昆布はいらないのでは」という話にもなる。実際には、出しには甘みも香りも余韻もあって、そのどれもグルタミン酸の一語では説明できません。

科学は味を理解するための道具であって、味を保証するものではない。こんぶ土居の話を面白いと思う理由の一つです。

だしを取ったあとも、食べ物として考える

店には「ミネラルいりこん」もあります。生まれたきっかけは、だしの成分分析でした。

煮干しや昆布のカルシウム、マグネシウムなどは、だしにすべて溶け出すわけではなく、多くがだしがらに残ります。なら、そのまま捨てず、食べ物としておいしくできないか。そこから、昆布・いりこ・大豆をカリカリに仕上げたミネラルいりこんが生まれました。

つくり方に考え方がよく出ています。いりこには調味料をまぶして焼く一方、昆布には味をつけず、焼いたあとに圧搾ごま油をまぶすだけ。大豆も味をつけずに煎ったものです。昆布そのものの味で成立させようとしているのが分かります。

同じ発想の商品がほかにもあります。「しっとりふりかけ」は、十倍出しをつくる工程から出る昆布や鰹節などを使ったものです。「梅かつこん」は細切りの真昆布と鰹節に、和歌山県の三幸農園の梅肉を合わせてやや甘口に炊いた佃煮。「細切りしおふき」は、細切りの真昆布を調味料で炊いて乾燥させた塩吹き昆布です。

いずれも、昆布をだしの材料としてではなく食材として扱っています。「フードロス削減だから良い」というだけではありません。残ったものを、もう一度ちゃんとおいしい食品にする。そこが大事だと思っています。

いちばん美しいのは、250円のふりかけ

こんぶ土居には、1枚で数千円する川汲浜の天然真昆布があります。長いあいだ、そうした最高級の昆布を届けることに力を注いできた店です。

ただ土居さんは、2020年のブログで、これからは「美食」よりも日常の食品のほうへ向かうべきだと書いています。目指すのは「体を養う正しい日常の食品が、安価でおいしい」という状態。食品添加物を使わないという基準は保ったまま、そこへ寄せていくという話です。

そのあとに、こんな一文が続きます。

250円※で販売している「しっとりふりかけ」を近所の子供さんが大喜びで買ってくれる。そんなシーンが、こんぶ土居の最も美しい部分でしょう。

※インフレ前の価格です

一枚数千円の昆布を扱ってきた人が、いちばん美しい場面として挙げたのが、近所の子どもが自分でふりかけを買っていくところだった。

私たちの子どもも、このふりかけが好きです。ごはんの時間になると喜んで冷蔵庫にふりかけを取りに行きます。鰹節と真昆布とあみえびが入っていて、噛むとそれぞれの素材の味がします。

店をやっていると、いい商品ほど「特別な日のもの」になりがちです。でも、ふだんの食卓で減っていくものこそ、選ぶ意味があるのだと思います。お子さんやお孫さんと食べるものを探している方には、まずここから渡したい一品です。

沖縄だから、昆布を扱いたい

ナガハマ88が沖縄で昆布を扱うことには、もう一つ意味があります。

沖縄では昆布は採れません。それなのに、クーブイリチーをはじめ、昆布そのものを食べる料理が昔から根付いています。

その背景にあるのが「昆布ロード」です。江戸期、北海道で採れた昆布は北前船で日本海側を通って大阪へ運ばれ、そこから薩摩を経て琉球へ、さらに清へと渡ったとされています。琉球は昆布交易の重要な中継地でした。

そして交易品だった昆布は、沖縄の食卓にも入り、やがてこの土地の料理になっていきました。だから沖縄では、昆布は「だしを取るもの」だけではありません。食べるものです。

私たちの家でも、「日本の出し」を使ったあとの昆布は、カレーやチャーハン、おからいりちーなどに使います。いったん味が抜けた昆布が、今度は料理の汁や油を吸って、具材として馴染んでいく。沖縄では、とても自然な食べ方です。

大阪から沖縄へ、もう一度

北海道で育った昆布が大阪へ運ばれ、さらに沖縄へ渡り、この島の食文化になった。いま、その大阪の昆布屋の商品が、また沖縄の小さな店に並んでいます。

昔の昆布ロードを再現しているわけではありませんが、でも、長い時間をかけてこの島の食べ物になった昆布を、いまの暮らしの中でもおいしく食べ続ける。ナガハマ88がこんぶ土居の商品を扱う理由は、そこにもあります。

思想が立派だから売るのではありません。まず、おいしいこと。ちゃんと使えること。

その理由を辿っていくと、つくり手が何を大切にしているかが見えてくる。私たちは、そんな商品を棚に置きたいと思っています。

よくある質問

だしを取ったあとの昆布は、どう使えばいいですか?

刻んで炒め物や炊き込みごはんに入れる、佃煮にするといった使い方があります。沖縄のクーブイリチーやおからいりちーのように、油と一緒に炒める料理は昆布が馴染みやすく、扱いやすいと思います。

昆布と合わせるなら、鰹節と干し椎茸のどちらが効きますか?

訓練したパネルで比べた報告では、干し椎茸のグアニル酸が鰹節のイノシン酸と同等かそれ以上でした。精進出しが成立するのはこのためです。ただし香りの方向は大きく違うので、料理に合わせて選ぶことになります。

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記事に登場した商品・道具

  • 日本の出し(だしパック)/こんぶ土居 — 大阪。白口浜真昆布と鹿児島産の鰹枯節を、昆布と鰹節に分けて順に使うセパレートタイプ。だしを取ったあとの中身も食材として使えます。店頭・オンラインストアで取り扱い。
  • 梅かつこん/こんぶ土居 — 大阪。80g。細切りの真昆布と鰹節に、和歌山県の三幸農園の梅肉を合わせてやや甘口に炊いた佃煮です。あたたかいごはんに。店頭・オンラインストアで取り扱い。
  • 細切りしおふき/こんぶ土居 — 大阪。細切りの真昆布を調味料で炊いて乾燥させた塩吹き昆布。お茶漬け、おにぎり、サラダなどに。店頭・オンラインストアで取り扱い。
  • ミネラルいりこん/こんぶ土居 — 大阪。ローストした真昆布・いりこ・大豆を合わせたものです。昆布には味をつけず、焼いたあとに圧搾ごま油をまぶしています。店頭でお取り扱い。
  • しっとりふりかけ/こんぶ土居 — 大阪。鰹節、真昆布、あみえびなどを合わせたふりかけ。十倍出しをつくる工程から出るものを使っています。ごはんにかけるだけで、お子さんにも食べやすい一品です。店頭でお取り扱い。
  • 天然真昆布 きざみ/こんぶ土居 — 大阪。刻んである昆布で、煮物や炊き込み、酢の物にそのまま使えます。店頭でお取り扱い。

在庫と価格は各商品ページ、または店頭にてご確認ください。

お酒は20歳になってから。適量を、おいしく楽しみましょう。