コーレーグースが苦手だという人は、珍しくありません。理由を見ていくと、「泡盛の匂いが苦手」「アルコールっぽい」「辛すぎる」「入れすぎると料理の味が全部コーレーグースになる」といった声が目立ちます。

これは、かなり妥当な意見で、コーレーグースは量を間違えると、本当に料理の味を壊します。店によって辛さも泡盛の香りの強さも違いますし、卓上で長く置かれたものや、注ぎ足しを繰り返してきたものには、唐辛子の香りが弱く、泡盛だけが目立つように感じるものもあります。

「コーレーグースは苦手」と思う人がいるのは、別に不思議なことではありません。

それでも、ちゃんとしたコーレーグースを、ちゃんとした量で使ったときのおいしさは、もう少し評価されてもいいんじゃないかと思っています。

島唐辛子を泡盛に漬けただけ。
見た目もつくり方も驚くほど素朴です。それなのに、料理にほんの数滴落とすだけで辛味が広がり、その奥から唐辛子と泡盛の香りがふっと立ち上がる。よく考えると、かなり面白い調味料です。

なぜこんなことが起こるのか。前回の「蒸留する酒」の話から、もう少し先へ進んでみます。

唐辛子を保存するだけなら、泡盛でなくてもよかった

島唐辛子を保存して料理に使う方法なら、ほかにもあります。酢に漬ける、塩に漬ける、干して粉にする、油に辛味や香りを移す。どれも世界各地で使われてきた、ごく自然な方法です。

辛くするだけなら粉唐辛子でも十分ですし、唐辛子を油に移した調味料も世界中にあります。そう考えると、なぜ沖縄では島唐辛子を泡盛に漬けたのか、少し不思議です。

ちなみに、コーレーグースの起源ははっきりしていないようです。唐辛子そのものは18世紀の前期までに沖縄へ伝わったとされますが、泡盛に漬けた調味料のほうはかなり新しく、明治期にハワイへ渡った沖縄の人たちが現地の唐辛子調味料をヒントに持ち帰った、という説があります。卓上の定番になったのも戦後だそうです。この記事の主眼ではないので深入りはしませんが、思っているよりずっと新しい食文化のようです。

いずれにせよ、昔の人がカプサイシンの溶解度や香気成分の揮発性を計算して泡盛を選んだわけではないでしょう。沖縄にあるものを使い、食べ、試し、その中で残ってきた。おそらく、そういうものだと思います。

ただ、その組み合わせを今の食品科学の側から眺めてみると、「なるほど、これはよく出来ている」と思うところがあります。

調味料には「取り込む力」と「手放す力」がある

唐辛子を何かに漬けるとき、大切なのは単に辛味を溶かせるかどうかだけではありません。大きく分けると、唐辛子から辛味や香りを取り込む力と、料理に加えたときにそれを手放す力。この二つがあります。

まず、唐辛子の辛味を担う代表的な成分が、カプサイシンなどのカプサイシノイドです。これらは水には非常に溶けにくい成分なので、水を主体とする酢は、辛味を抽出する液体としてはそれほど得意ではありません。塩も、そもそも液体の溶媒ではありません。

一方、カプサイシノイドは油やエタノールにはよく溶けます。つまり「唐辛子の辛味を取り出す」という点では、油も泡盛もかなり優秀です。ここだけを見れば、まだ泡盛でなければならない理由はありません。

面白いのは、香りのほうです。

島唐辛子を切ったときに感じる青い植物のような香りや、少し果実を思わせる香り、土やスパイスのようなニュアンス。唐辛子の香りは一つの成分で出来ているわけではなく、性質の異なる多くの揮発性成分が重なっています。

泡盛はエタノールだけではなく、水とエタノールが混ざった液体です。そのため、油に馴染みやすい側の成分だけでなく、もう少し水に馴染みやすい側の成分まで、比較的幅広く取り込める可能性があります。

さらに、生の島唐辛子そのものにも多くの水分があります。油と水は混ざりません。そのため、油に唐辛子を移す方法では乾燥唐辛子が使われることが多い。一方、泡盛なら、生の島唐辛子をそのまま漬けられます。

摘んだ唐辛子を瓶に入れて、泡盛を注ぐ。それだけです。ものすごく素朴な方法ですが、考えてみるとかなり合理的です。

コーレーグースの面白さは「取り込む力」だけではない

私がコーレーグースを面白いと思うのは、ここからです。

油も辛味や香りをよく取り込みますが、香りの成分の中には、油に馴染むほど油の中に留まりやすくなるものがあります。香りは液体の中にあるだけでは私たちの鼻には届きません。液体から空気中へ移り、鼻へ届いて、初めて「香り」として感じられます。

つまり油には、よく取り込む一方で、取り込んだ香りを抱え込みやすいという面があります。

泡盛の場合、料理に落とした瞬間に大きな変化が起こります。

まず、アルコール濃度が一気に下がります。エタノールは多くの香気成分を液体の中に溶かしておく働きがありますが、水で薄まってエタノール濃度が下がると、それまで泡盛の中に留まっていた香気成分の一部が、空気中へ移りやすくなります。

しかも、温かい料理なら温度も上がり、数滴の液体が広い表面へ散らばります。香りを液体の中に留めていた条件が、一度に変わるわけです。

つまりコーレーグースは、泡盛の中に辛味と香りを保存しておき、料理に落とした瞬間、その香りを開く。

沖縄そばに数滴落としたとき、辛くなるだけではなく、湯気の中から香りがふっと立ち上がってくるのは、この変化が関係していると考えられます。

だから私は、コーレーグースを「瓶の中で完成している調味料」というより、料理に入ってから本領を発揮する調味料だと感じています。

数滴で料理全体へ広がる

もう一つ、泡盛であることの大きな利点があります。水と混ざることです。

沖縄そばの汁へ数滴落とせば、液体の中へすっと広がっていきます。スープでも、味噌汁でも同じです。油をベースにした唐辛子調味料は、基本的には水と分かれて表面に浮きます。もちろん、それはそれでおいしい。ラー油にはラー油の良さがあります、というわけです。

ただ、コーレーグースは少し違います。料理の上に存在感を残すというより、少量で中へ入り込み、料理全体の輪郭を変える。その使い方に向いています。

だからこそ、たくさん入れる必要がありません。むしろ、たくさん入れると壊れます。

コーレーグースが苦手なのもよく分かる

コーレーグースについて否定的な声を見ていくと、「辛すぎる」「泡盛の匂いが苦手」「入れすぎると料理の味が分からなくなる」といったものが多く、これはどれもよく分かります。

島唐辛子の辛味は強く、泡盛の香りもあるうえ、水に混ざって料理全体へ広がるので、量を間違えれば簡単に料理を支配します。繊細な出汁なら、あえて入れないという選択も当然ありだと思います。

また、店の卓上に長く置かれたり、泡盛を注ぎ足しながら使われてきたものの中には、唐辛子の香りが弱くなって泡盛ばかりが目立つように感じるものもあり、同じ「コーレーグース」でも状態によって印象はかなり違います。

だから私は、こうした評価を「使い方を知らないから」と片づけたいわけではありません。ただ、コーレーグースはたくさんかける調味料ではなく、ほんの数滴で料理の香りや辛味を少し動かすものです。

泡盛の香りも含めて、その数滴が料理の中でどう変わるのかを味わってみると、この調味料の見え方は少し変わるんじゃないかと思っています。

要するにこの調味料は、足すことより、どこで止めるかのほうが大事なのかもしれません、という事です。

香りは上へ、辛味は中へ

コーレーグースを料理に入れたとき、香りと辛味は同じように動いているわけではありません。

香りの成分は揮発して鼻へ届きます。一方、カプサイシンはほとんど揮発せず、料理の水分や脂の中へ広がって、口の中でTRPV1という受容体を刺激します。私たちが「辛い」と感じるのは、この刺激によるものです。

つまり一滴の中で、香りは空気中へ立ち上がり、辛味は料理の中へ広がっていく。別々の経路で、同時に働いています。

しかも、これを食べる直前に加えられる。香りのある素材を加熱の最初から入れると、揮発しやすい成分は調理中に失われやすくなります。その点、コーレーグースは島唐辛子の辛味と香りを瓶の中に置いておき、食べる直前に必要な分だけ加えられます。

言い換えれば、島唐辛子の辛味と香りを保存しておいて、食卓で開く調味料とも言えると思います。

昔から食堂のテーブルに何気なく置かれている瓶ですが、やっていることは意外と洗練されています。

一度だけ、数滴で試してほしい

もしコーレーグースがあまり好きではないなら、一度だけ、数滴で試してみてほしいと思っています。

沖縄そばでも、味噌汁でも、鶏のスープでもかまいません。まずはそのまま一口食べて、そのあとにコーレーグースを二、三滴だけ加える。今度は辛さだけでなく、湯気の香りや、飲み込んだあとに鼻へ抜ける香りにも少し意識を向けてみてください。

それで「やっぱり苦手だ」と思うなら、それでいいと思います。泡盛の香りが好きではない人もいますし、辛いものが苦手な人もいます。

でも、「思っていたより、ちゃんと料理の中で働いているな」と感じてもらえたら、とても嬉しいです。

コーレーグースは、たくさん使う必要はありません。本当に数滴でいい。足りなければ、あとから足せます。

島唐辛子を泡盛に漬けただけ

コーレーグースは、島唐辛子を泡盛に漬けただけです。本当に、それだけです。

特別な機械もいらないし、複雑な加工もしません。島で採れた唐辛子と、島で造られてきた酒を一緒の瓶に入れる。

それだけなのに、水には溶けにくい辛味を取り込み、いくつもの香りを抱え、料理に落とせば水へ広がり、温かければ香りを立たせ、食べる人の口まで辛味を運ぶ。

もちろん、泡盛の香りが苦手な人もいます。入れすぎれば料理を壊しますし、長く置かれたものには、おいしいと思えないものもあります。

欠点のない調味料ではありません。むしろ、少し扱いにくい。

でも私は、そこも含めて好きです。

昔の人が、ここで書いたような科学的な理屈まで考えていたとは思いません。ただ、生活の中で使われ続けてきたものを、あとから科学の言葉で眺めてみると、「なんてよく出来ているんだろう」と思います。

コーレーグースは、辛いだけの液体でも、泡盛くさいだけの調味料でもありません。でも同時に、誰にでも、どんな料理にも、たくさんかければ美味しくなるものでもありません。

数滴でいい。

その数滴が、料理の味を少しだけ動かす。私は、その小さな働き方が好きです。

次に沖縄そばを食べるときは、まず出汁をそのまま味わって、そのあとに二、三滴だけ落としてみてください。辛さだけでなく、そのあとに何が立ち上がってくるのか。少しだけ気にしてみてもらえたらと思います。

よくある質問

コーレーグースにはアルコールが残っていますか?

残っています。泡盛に島唐辛子を漬けた調味料ですので、少量の使用でもアルコールを含みます。温かい料理に加えれば一部は揮発しますが、なくなるわけではないのでご注意を。

自分で作るなら、どんな泡盛を使えばよいですか?

一般には、ある程度アルコール度数の高い泡盛が使いやすいと考えられます。唐辛子の成分を抽出することと、保存性の両面が理由です。
ただし、泡盛そのものにも香りがあります。華やかなもの、穀物感のあるもの、熟成香のあるものなど、使う泡盛が違えばコーレーグースの表情も変わります。
コーレーグースは、島唐辛子だけでなく、泡盛も味をつくっている調味料です。作り比べてみるのも面白いと思います。

コーレーグースは沖縄そば以外にも使えますか?

使えます。
コーレーグースというと沖縄そばの薬味という印象が強いですが、炒め物、チャーハン、焼きそば、スープ、肉料理、魚料理など、使える料理はかなり幅があります。
考え方は単純で、「ここに少し辛味があったら美味しい」「香りが少し立ったら面白い」と思う料理に、まず数滴だけ加えてみること。
島唐辛子の辛味と香りを泡盛に移し、それを料理へ少量ずつ届ける調味料だと考えると、沖縄そばだけのものではなく、かなり自由に使えます。

コーレーグースには、唐辛子以外のものを入れてもいいの?

基本のコーレーグースは、島唐辛子を泡盛に漬けたものです。ただ、そこに別の素材を加えて香りや味わいをつくるものもあります。私が好きなのが、崎山酒造廠「松藤」のコーレーグース。泡盛と島唐辛子に、もろみ酢とよもぎが加えられていて、辛さだけでなく、少し複雑な香りと旨味があります。(当店でのお取り扱いはないですが涙)
考えてみれば、泡盛は唐辛子の辛味だけを取り出す液体ではありません。さまざまな香りの成分を取り込み、料理に加えたときにそれを運ぶことができます。そう考えると、島唐辛子を基本にしながら、よもぎやハーブ、香辛料などを加えてみるのも、コーレーグースの楽しみ方のひとつだと思います。
伝統的な基本形はシンプル。でも、その仕組みを使ってどんな香りを料理へ運ぶか。そこまで考え始めると、コーレーグースはかなり自由な調味料です。

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